序章


 

 

 十六年前、しきたりどおりに事は進められた。
 母親は娘を手放したくないと、泣いて訴えた。その必死の願いを父親は受け止めながらも、仕方がないんだよ、と母親に繰り返した。そうしなければ、この子は十六歳になるまでに死んでしまう運命なのだから、と。
 母親は泣きながらもその残酷な事実を受け入れ、娘を手放さなければならないその瞬間まで、強く優しく娘を抱いた。

 

 迎えがやってくる。月の光を受けながら娘は行く。父親と母親には手の届かない、遠い場所へ。
 母親は娘の供として共に行く、一人の男の子に娘を託した。まだ六歳の男の子は娘を大切そうに抱くと、どうか心配なさらないでください、と母親を気遣った。私が必ず護って、大切に幸せに過ごしていただきますから、とそう付け加えて。
 小さな男の子に心配される自らの不甲斐なさと、彼の包み込むような優しさに、二人は涙して娘を送り出す。これから十六年の間、自らの娘の成長の過程を傍で見守ることができない歯がゆさを胸の内に伴って、下界へと消えていく娘を目に焼き付けるように見つめながら。

 

 

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