◇序章◇

◇   ◇   ◇   ◇
 

 この世の中には、不思議なことなんてない。
 

 そう信じて生きていきたかった。自分の目に見えるものだけを信じて生きていきたかった。
 俺には見えない何かが、俺の知らない世界が、確かにそこに存在するなんて、そんなこと認めずにいられたら。あれはただの事故だったと、信じて生きてけたら。

 

 けれどそれは、あいつに対して酷くむごいことをしているようで、あいつの存在すら否定してしまうような願いのようで。

 

 世界には二種類の人がいる。
 何も知らずに生きていく人。そして、知って生きていく人。
 俺は、どちらとして生きているんだろう?
 俺は前みたいに何も知らずに生きていければよかったのに。知って生きていくなんて、耐えられないから。
 俺は何も知らずに生きたいと、望んでいる人間なのだから。

 

 あの夏の日にあいつの傍を離れたことを、一生後悔して、一生あいつに謝り続けながら、俺はこれからも生きていくのだろうか。
 そんなの、一体誰が望んでいるのかも、分からないのに。

 

◇   ◇   ◇   ◇

 

 

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